当蔵の醸造アルコール添加についての考え方

当蔵の醸造アルコール添加
についての考え方

尾畑酒造(株)代表取締役社長 平島健

皆さんは醸造アルコールとは何だか知っていますか?
化学製品をイメージされる方もいるようですが、実際には大型のペットボトルなどで販売されている安価な焼酎(焼酎甲類、連続式蒸留焼酎)と同じ様なものと考えていただければ結構です。
トウキビなどを原料とした蒸留酒で、連続蒸留することによって100%に近い純度の高いアルコールとなります。清酒に添加はする際は、通常アルコール分30%に調整しますが、原料由来の味や香りはほぼ皆無で極めてクリアなものです。

ところで日本酒にアルコール添加を始めたのはいつ頃だったかと言いますと、意外と歴史が古く江戸時代初期にまで遡ります。
アルコール添加といっても今のような純度の高い醸造アルコールではなく、米や酒粕を使用し、その原料由来の風味が残る今でいうところの本格焼酎(または焼酎乙類、単式蒸留焼酎)を添加していました。これは「柱焼酎」という手法で主に高濃度のアルコールを添加することで腐造を防ぐとともに、味わいを軽快にするために行われていたと言われます。

さて、それでは現在のアルコール添加はどのような理由で行われているかというと、2つのことが考えられます。ひとつは「柱焼酎」の考え方にも通じる、酒質が安定する、クリアになる、劣化しにくくなる、といった添加によって得られる効能があるからです。
これに加え近年は吟醸酒にアルコールを添加することで香りが良くなるという利点もあげられます。
もうひとつは太平洋戦争を前後した時期の米不足によって生まれた三倍増醸酒(三増酒)の流れからきています。
三増酒は米から生成されるアルコールのおよそ2倍の醸造アルコールを加えて、結果的に3倍の酒を造ることからその名が付けられました。
米不足や酒自体が不足して闇酒が横行した時代には必要であったのでしょうが、時代が進んで米不足が解消された後は、醸造アルコールを多く使用した酒は単に安く製造するという理由で造られてきたことになります。

この醸造アルコールをたくさん使用して製造しているのが普通酒と呼ばれるものです。普通酒には2種類あって、普通アル添酒(新潟の普通酒はほとんどがこれです)といわれる白米1t仕込みに対して280Lまでアルコールが添加可能で糖類など調味料を使用していないものと、増醸酒と呼ばれ、仕込みに使われる白米の1/2の重量まで醸造アルコールなどの添加物の使用が許され、味を補うために糖類などの調味料を加えているもの(ラベルの原材料名を確認すると分かります)があります。
一般的には、より多くのアルコールを添加する後者の方が安く販売されています。 それに対して、同じ醸造アルコールを添加したお酒でも、酒税法によって特定名称酒と定義されている本醸造、吟醸、大吟醸は、その重量が仕込み総米(白米)の10%以下に限られ、酒質を安定させる、香りを出やすくするなどの効能を得るために醸造アルコールを使用しているのです。

尾畑酒造のアルコール添加に対する考え方は、その効能を利用して品質を高めるために行うものと考え、これまでも当社の普通酒はアルコール添加量が少なく、白米1tに対して180L以下しか使用していませんでした。
この度、その考えをさらに深化させ、醸造酒としての日本酒本来の姿を見つめなおして、アルコールを添加する酒は本醸造、吟醸、大吟醸のみとし、普通酒の製造を廃止いたしました。そして2009年10月よりレギュラー酒をこれまでの普通酒「真野鶴・天下御免」「真野鶴・越佐流辛口」から、本醸造である「真野鶴・辛口鶴≪本醸造≫」に切り替えたのです。従来品よりアルコール添加量を半分近くまで減らして、スッキリとした辛さはそのままに、米の旨みがしっかり生きた新レギュラー酒「真野鶴・辛口鶴≪本醸造≫」にどうぞご期待ください。