NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第26回  「新潟の酒」で乾杯!


 新潟の自慢。その一つはまぎれもなく日本酒です。


 九十七の蔵元が高品質のお酒を長年の努力で造り続けているこの地は“地酒王国”として知られていて、それはすなわち世界一の地酒王国ということでもあります。


 我が家もそんな新潟の酒を造る蔵の一つであり、佐渡で昔ながらの蔵人泊まり込みによる手造りの酒をかもし続けています。決して大きな蔵ではないし、近代化もされていない古い蔵。そういう小さな蔵が新潟には多いのですが、しかしその酒は今では世界に飛び出し、多くの国で飲まれるようになっています。 
 

 現地消費者の間では、sakeが認識されていることはもちろん、今ではjizakeという言葉も徐々に広がっており、ワインのように味や生産地へのこだわりを持つ人も増えてきています。


 そんな中、新潟の酒はその淡麗な味わいで全体に評価が高く、国内同様にNIIGATAがSAKEのブランドとして知られるようになる日も遠くないことを想起させます。ワインの産地と言えば、ボルドーやブルゴーニュ、ナパの名前が出てくるように。
 

 日本酒に限らず、おいしい酒がある処には、豊かな自然、卓越した伝統技術と語り継ぐべき歴史と文化があるものです。新潟では雪深い気候風土が生んだ柔らかい軟水、高品質な米、革新を繰り返した高い技術と担い手。そして豊かな食材と素材を生かした料理、人情溢れる新潟の人。この全てが新潟の酒の文化と言えます。新潟をふるさとに持つ者として、銘酒を生んだ新潟をもっと知ってもらいたいと願っています。
 

 地酒はその地で味わうことで極上になる。いつか新潟の酒に魅了された人たちが、国内はもちろん世界中からこの地を訪れ、越後・佐渡料理に舌鼓を打ちつつ盃を傾けてくれたなら、これこそ極上の喜び。
 

 「裏日本」としばし揶揄される日本海の荒波に囲まれた新潟は、環日本海の拠点となって北東アジアの星になれる都市でもあります。それは、近代化され高層ビルが立ち並び、ネオンの光る街ではありません。伸びやかな黄金の稲穂が延々と波を打ち、豊かな土からは味わい深い越後の野菜が誕生し、山からは清涼な湧水が流れ、夜空には無数の星たちと会話が楽しめる。そんな偉大なる農産県なのです。
 

 たった今この瞬間も、新潟育ちの酒たちは異国の地で誰かと出会っているかも知れません。
 酒が国境を超え、新潟を語り、浪漫を語る----。
 国際都市NIIGATAに思いを馳せ、「新潟の酒」で乾杯!


 

2006・9・27 NHKラジオ「朝の随想」最終話
尾畑酒造株式会社
尾畑留美子