NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第25回  未来への浪漫


 半年に及んだ私の「朝の随想」も、いよいよ来週で最終回を迎えます。自分の中の引き出しが乏しいことを自覚しながら、勉強勉強の半年でした。たくさんの本を読み、たくさんの人に会いに行きました。何気ない会話から、浪漫溢れるストーリーに出会うこともあり、地元の宝物を再認識した半年でもありました。
 

 バブルが崩壊して十年強。「ものが売れない」「景気が悪い」「人情がなくなった」と人の口からこぼれる愚痴は数々あるけれど、こうした浪漫に出会えると、まだまだ新潟の未来は明るいな、と自信が湧いてきます。
 

 その中でも、ある人との再会についてお話したいと思います。佐渡のお寺の住職から、十年前、富士山にある本山に赴いた本間守拙さんです。
 

 人の徳は顔に表れるとよく言われますが、清廉な白い蓮の花のように座する守拙さんの前に立つと、いつも自然とありがたい気持ちになります。
 

 守拙さんは永遠の浪漫でふるさとを愛し、地球的視野で佐渡を語り、寛容と忍耐を体言する一方で、ユーモアを歓迎し、明るい島づくりに奔走した人でもあります。その功績を語るにはあまりに時間が足りないのですが、1983年、島興しの一環で旧真野町の独立共和国の代表者となり、バチカンにも赴いて佐渡を国際舞台に導きました。私の父もその時同行させて頂いたのですが、当時の関係者が決して平坦とは言えなかったこの試みを紆余曲折を経ながらまっとう出来たのも、一重にこの方の存在がそばにあったからなのだと今更ながら痛感するのです。
 

 それから二十数年の時を経てなお、いえ、さらに、ふるさとの未来に思いを馳せる守拙さん。守拙さんは、美しい心を持った人間を育てることが美しいふるさと作りなのだといいます。澄んだ瞳で「この島にはいつも自然との語らいがある」と語るその姿には、時間すら遠慮がちに流れていくようで、ともすれば、時代のスピードに追いつこうと無理をし、競争をし、浪漫を忘れがちな私たちに、もっと未来へ向けた穏やかな視点を与えてくれます。
 

 守拙さんにとっての浪漫を尋ねると、一瞬間をおいて、「生きる喜び」と答えが返ってきました。生きる限り、いかされている限り、人みなを幸せにしたいという思い。それが生きる証なのである、と。

 

左・本間守拙さん 右・尾畑俊一

 

 発信して受信する。進化しつつ伝統を後世につなぐ。
 先人の知恵と文化を子どもたちに託す。
 そして何より、今を生きる私たちが未来に浪漫を持つこと。
 未来は遠いようですぐそこです。
 浪漫を語るに、遅すぎるということはありません。
 

2006・9・20 NHKラジオ「朝の随想」
尾畑酒造株式会社
尾畑留美子