NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第23回  憧れの人

 

 子供の頃、毎週日曜日の朝に放送されていた、世界の旅番組に夢中でした。兼高かおるさんがプロデュースからナレーションまで務め、故・芥川隆行さんとの軽妙なやり取りで人気のあったこの番組、ファンだった方も多いと思います。


 私も同様に、佐渡にいながらにして、広い世界を見せてくれるこの番組が大好きでした。肌の色が違う人がいること、太陽が一日中沈まない国があること、食事を断って神様に祈りを捧げる宗教があること、みんなこの番組が教えてくれました。
 

 すっかり兼高ファンになって小学生時代を過ごした私は、卒業文集の「将来の夢」で、「世界を紹介するジャーナリストになりたい」などと綴ったのを覚えています。
 

 結果、ジャーナリストにはなりませんでしたが、映画会社に就職して、映像を通して世界を紹介することとなりました。その後蔵に戻り、今度は逆に日本食ブームに湧く海外に酒を輸出する仕事も始めることになりました。小学生当時の夢の通りとはいかないまでも、映画と日本酒を通してわずかとは言え世界と交流することとなったわけです。
 

 この酒の輸出を始めて感じることがあります。
 

 一つは、海外というフィルターを通すことによって再発見する日本酒の魅力です。近くで見ると気づきもしない日本酒の特性が、海外の消費者の目には大きな魅力だったりしまて、業界の常識でマンネリ化した頭に、とても新鮮な視点をもたらしてくれます。
 

 二つ目は異国の広いフィールドに出れば出るほど、自己について、「地」について問われることです。この場合、それは日本人であること、新潟の自然と郷土文化、そして日本酒という伝統の酒を造っているということです。グローバル化した時代であればこそ、その人間のや商品を育てた文化的郷土的背景に誇りを持つ必要があるのです。
 

 子供の頃から憧れの兼高かおるさんは、美しい日本語を使い、時には着物を身にまとい、世界各国を私たちに紹介してくれました。けれども今になって思います。まだ海外渡航が自由化されていない時代から、実は兼高さん自身が、“世界に日本を紹介していた”のだと。
 

 兼高さんは三十一年もの番組制作を通して、150カ国を訪れ、距離にして地球を180周したそうです。
 そんな彼女の一昨年のインタヴュー記事には

「日本は世界の中でも本当に自然が美しい国」とありました。

その自然が育んだ日本酒文化を通して、私も誇りをもって、Nipponを紹介していこうと思います。
 

2006・9・7 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子