NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第22回  酒をめぐる旅イン新潟

 

 佐渡の造り酒屋に生まれ育った私ですが、実はビールもワインも大好きです。蔵に戻ってから新潟をまわる機会が増え、嬉しい発見がありました。それは、新潟は地酒王国なだけではなく、地ビールやワインもたくさんあるということです。


 何度か訪れた地ビール蔵は、とある湖のそばにあります。風味豊かなビールは、国際的なビールコンテストで数多くの受賞歴を誇る実力派。そんなビールの味もさることながら、おすすめしたいのは、そのビールを味わう環境です。敷地内には3つの施設があるのですが、必見なのは明治時代の古民家を改造した風格あるレストランと風情のある日本庭園です。庭を眺めながら頂いた洋風懐石は、豆腐のテリーヌや地元の食材を見事にアレンジしたコース。洋風に仕立てることによって、逆に和の素材の持つ味わいが引き立ちます。雪深い新潟の季節には、さらにその美しさが際立つことを想像させる豪農の館。時代を超えた穏やかな時間と、味わい深い地ビールに酔いしれ、あっという間に時間が経ってしまいます。
 

 地ビールの次はワイン。目指したのはオープンして十四年のワイナリー。砂利道の奥に広がる広大なぶどう畑の中にその建物はあります。太い木で骨組みされたダイナミックな欧風の洋館、広い窓には燦燦と陽光が差し込みます。焼き立てのパンやソーセージの香りが漂う空間は、まるでヨーロッパの田園のようです。
 

 このワイナリーではすべての醸造に使うブドウを、この地で一から栽培してきました。当たり前のことのようですが、日本酒における酒米がその地に根付くまで長い年月がかかるように、このブドウ栽培も長い時と揺るぎのない情熱に支えられているのだと思うと、酒米とブドウに共通する「農業」の姿に対して深い尊厳を感じます。
 

 県内には他にも、全国で地ビール第一号となって話題を呼んだビール醸造蔵をはじめ、多くの地ビールがあります。ワインでは明治時代、私財をなげうってワイン醸造用ブドウの品種改良につとめ、「日本のワインブドウの父」と呼ばれる人物も輩出されていますし、注目のワイナリーが数多くあります。
 

 日本酒の王国として知られる新潟ですが、このように本格派のビールやワインも生産されているとは嬉しい限り。時代を超えて佇む地ビールレストラン、ヨーロッパにいるかの如くのワイナリー。時空を越えて楽しむ酒は、やはり時空を越えて長く愛されていくに違いありません。
 

2006・8・31 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子