NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第18回  夏の燗酒


 暑くなってまいりました。一日の仕事を終えた後の冷えたビールがおいしい季節です。そんな季節になんですが、私は夏の燗酒、結構好きです。
 

 日本酒は冷やして良し、常温でよし、燗して良し、という世界でも珍しいお酒です。一口で「燗酒」と言っても、その温度帯で、日向燗、人肌燗、ぬる燗、上燗、熱燗、飛切燗と細かく分類されます。
 

 酒を冬に暖めて飲むようになったのは、平安時代ではないかと推測され、年間を通して燗をするようになったのは江戸時代に入ってからと言われています。実際、一昔前までは、「酒」というと、お燗のイメージがあったかと思います。それが香りの良い吟醸酒がブームになり、生酒が巷に出回るようになると、冷酒やロックという飲み方も一般化してきました。
 

 いろいろな温度で酒が楽しめるようになってきた中で、最近、「燗酒」が再び注目を集めています。
 

 その理由の一つは、燗酒が体への負担が少ないからです。体温に近い温度の酒は、体に無理なく吸収され、適度な酔いを感じます。逆に冷たい酒はしばらく時間を置いてから吸収されるため、気が付いたら飲みすぎていた、ということが起こります。「燗酒」は体に優しい飲み方なのです。
 

 もう一つの理由は、燗をすることによって同じ酒でも違う魅力が引き出されることだと思います。その魅力をより実感出来るように、湯煎で好みの温度に燗をつけたり、また、チロリと呼ばれる錫(すず)や真鍮(しんちゅう)で出来た燗用の容器を揃える店も増えてきています。


 では、燗に向く酒、向かない酒とはどんな酒でしょう。一般的に香りのある吟醸や大吟醸は冷やで飲むもの、というイメージがありますが、これは一概には言えません。
 

 吟醸酒クラスであれば、ぬる燗につけるとフルーティな香りが優しくふくらんで、燗上がりすることがあります。大吟醸でも、北陸のある蔵では燗に向くという大吟醸を造っています。逆に燗に向くとされる適度に酸のある酒でも、燗をつけることによって重厚感が出すぎて飲みにくく感じることもあります。要は、教科書通りにはいかないわけですから、決め付けずに自由に楽しむことです。
 

 最後に、20年ほど前、日本酒造組合中央会で紹介された「燗ロック」という飲み方を紹介致します。氷を入れたグラスに、やや熱めに燗をした酒を注ぎます。適度に氷が融けて瞬時に冷えますが、良い酒は水っぽくなることなく、軽快な味わいになります。新潟の酒は後味がきれいな酒ですので、このようにしても割り負けせず、おいしく楽しめることと思います。
 

2006・8・3 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子