NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第16回  宴(うたげ)にあたり

 
 嬉しいにつけ、悲しいにつけ、人が集まると自然、そこに酒が登場するものです。気の合う仲間が集まると、いろいろな場面で宴が始まります。


 まずはその場に参加している全員の健康などを祈願して「乾杯」です。が、ちょっと待って下さい。普段、お手元の入れ物には何が入っていますか?


 日本には八百万神(やおよろず)と呼ばれるたくさんの神様がいます。私たちが祈願をする際、この八百万神に祈願するわけです。ギリシャ神話の酒の神、「バッカス」というわけにはいきません。


 にも拘らず、ここ新潟においても多くの場合、乾杯は日本酒以外の酒で行われることが多いようです。せっかくならば、国酒であり、新潟の自慢でもある清酒で乾杯して欲しいと思います。新潟県外からのお客様を迎える時は尚のこと、新潟のおもてなしを感じてもらえるチャンスです。


 さて場面を進めましょう。声高らかに日本酒で乾杯を唱和したら、楽しい宴の始まりです。酒を酌み交わしつつ語りあううちに、相手との距離が近くなる。そんな楽しい魔力が酒にはあるようです。


 しかしながら、人はまた、酒のもう一つの魔力からも逃れがたいもののようです。知らず知らずのうちに盃が進み、気がついたら飲みすぎてしまう・・・という誘惑の魔力です。


 「酒は百薬の長」であるはずなのに、時としてこの薬は鬼の顔を見せて、ものの限度というものをたっぷり味わわせてくれるのです。
 

 せっかくおいしい酒を飲むなら、鬼の顔は見ないにこしたことがありません。そのために簡単な方法をお薦めしたいと思います。


 それは「和(やわ)らぎ水」を飲むことです。「和らぎ水」とは、日本酒を飲みながら飲む水のこと。水を飲むことで酒のアルコール分が下がり、酔いの速度がゆっくりと穏やかになります。また、食事や飲酒の合間に飲みますので、口直しになって次の料理や酒もいっそうおいしく感じられます。
 

 酒業界の人間大勢で飲む際にも、テーブルの上には酒が並ぶと同時に水のグラスがたくさん並びます。酒のプロの間でも、おいしく飲むために「和らぎ水」は実行されているのです。
今夜もあちらこちらで宴が催されることと思います。“日本酒で乾杯”、“「和らぎ水」で一呼吸”、をぜひ実践してみて下さい。
 

 もっとも、酒の最大の魅力は人の和を醸すこと。気の合う人たちと、楽しく語り、おいしく食べて飲むことですが一番の良薬かもしれません。
 

2006・7・20 NHKラジオ「朝の随想」
尾畑酒造株式会社
尾畑留美子