NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第14回  越淡麗


 日本に酒が誕生したのはいつでしょう。諸説ありますが、有力なのは「口嚼酒(くちかみのさけ)」が日本最古の酒の原型だったという説です。この「口嚼酒」は、文字通り、米を噛んで出来た酒です。米の澱粉や唾液の酵素、自然に浮遊している酵素などが作用してアルコールになるのですが、そんな理屈は横に置いて、この日本初の酒を発見した人はさぞ驚いたことと思います。“米が酒になった”のですから。
 

 さて、その古来の発見は受け継がれ、今も酒は米からできています。この米は、普段私たちが食べる米とは違う、「酒造好適米」と言われる酒米です。
酒米は、日本酒に使う場合に普通玄米の七十%位まで磨きます。特定名称酒と言われるものになると玄米の六十%から三十五%まで磨きます。これは、米のタンパク質や脂肪などを取り除き、中心部分のデンプンをより多く使うためです。
 

 新潟県には独自に開発した「五百万石」という優秀な酒米があります。これで造った酒は後味の軽い、淡麗ですっきりとしたタイプになるので、新潟清酒躍進の立役者として大活躍しています。
 

 一方、兵庫県などで栽培される酒米として「山田錦」があります。この品種は五百万石とは対照的に、深みのある味の酒に定評があります。この二つは今では日本酒界の二大酒米として君臨しています。
 

 そんな五百万石ですが、実は苦手とするところがあります。高度に精米した場合、米が砕けやすいという性質があるのです。そのため、新潟の酒でも、一部の特別な酒には他県産のものを用いる場合があるのです。
 

 この問題を解決すべく、構想十八年をかけて開発を進めてきたのが、「越淡麗」という新しい酒米です。越淡麗で作った酒は、五百万石のすっきり淡麗な味わいと、山田錦の膨らみのある味わいを併せ持ち、今までの新潟清酒に新たなタイプが加わることになります。
 

 血筋の良さを感じさせるこの米ですが、その反面、栽培面では歓迎されない特性もあります。背が高く倒れやすく病気に弱いという特性です。けれども、同様の欠点を持つコシヒカリの栽培技術を持つ新潟県では、これは致命的な弱点ではありません。
 

 実際、日本一の越淡麗を栽培し、日本一の酒を造りたい、と志を抱く生産者も出ています。
 

 原料、技術、酒造環境、すべてを新潟で完結する「オール新潟清酒」のより豊かな未来に向けて、さらなる挑戦は続いています。
 

 酒という伝統の文化であればこそ、「新潟淡麗」は進化していくのです。
 

2006.7.6NHKラジオ「朝の随想」 
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子