NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第12回  酒と料理の相性


 仕事柄、我が家での晩酌にはよく日本酒が登場します。家にはいつも数種類の酒が置いてあって、大吟醸、純米酒、本醸造・・・と趣味で集めているいろんな酒器で飲んで楽しみます。
でも、一般的には、大体決まった酒を飲むことが多いと聞きます。せっかく新潟に住んでいるのに、それはもったいないことだと常々思っていました。


 異国のワインでも、魚料理なら白ワイン、肉料理なら赤ワイン、と飲み分けるのがなんとなく常識になっています。かたや日本酒となると、燗か冷やかは気にしても、料理に合わせてわざわざ酒を変えることはまずないのです。繰り返しますが、もったいないことです。


 「そうかなぁ〜。じゃあ、今度試してみようかな」、と思うあなたに参考にしてほしい料理本があります。家庭料理といえども、ちょっとした一工夫でもっと酒がおいしくなる、そんなレシピが詰まった本。書いたのはフランスで料理を学んだ経験もある、中島有香さんという新潟在住の女性です。
 

 中島さんの本には、新潟県内のたくさんの酒と、それらと相性の良い料理の造り方で溢れています。料理の内容も、和食の枠を超え、洋食や中華のテイストが盛り込まれていて、見た目も色彩豊かな食卓が出来上がります。
 

 「そうかなぁ〜。でも、洋食に日本酒なんて、合わないんじゃないの?」と思うあなたにこそ試してほしいのが、この料理でもあります。実は、私も和食以外と日本酒が合うかちょっと疑問に思っていた一人でした。けれども、以前、中島さんのレシピによる洋食と新潟の日本酒を楽しむイベントに参加する機会があり、その意外な魅力を発見したのです。
 

 軽い味わいの前菜には香り華やかな大吟醸、スズキのポワレにはすっきり凛とした吟醸酒、牛ヒレ肉のグリル風にはしっかりボディのある純米酒、とれたて秋野菜のマリネ仕立てには酸味を感じる純米原酒を組み合わせます。まるでワインさながらに料理に合わせて次々とグラスに酒が満たされて、テーブルの上は華やかな舞台のようです。
 

 同じ日本酒なのに、料理との相性でまったく違う味わいになるのがとても不思議です。一口食べて、一口酒を含むごとに、来場者からは思わず驚嘆の声がもれます。何よりも和食以外のものにもこれだけ日本酒が万能に楽しめることに、その懐の深さを実感したのでありました。
 

 中島さんは、「新潟の酒は、フランスのボルドー」とおっしゃいます。酒も食材も種類が豊富でおいしいものがいっぱい。だからこそ、そんな身近な贅沢を実感しない手はありません。
 

 論より証拠。どうでしょう。今日はいくつか日本酒を並べて、色とりどりの料理といろんなおちょこやグラスで食卓を飾ってみませんか?きっと、普段とはまったく違う、日本酒の素敵な一面と出会えるはずです。

 

2006・6・22 NHK ラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子