NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第8回  日本橋で味わう故郷の味


 東京の日本橋。老舗の百貨店が立ち並び、新潟県の情報発信センター、NICOプラザもある落ち着いた街です。


 この日本橋に最近、新潟料理を食べさせてくれる居酒屋が開店したと聞き、先日行ってまいりました。新潟の「蔵」にこだわったというそのお店では、地酒はもちろんのこと、醤油、味噌などを、作り手と蔵の写真をつけて紹介しています。他にも天然の塩、栃尾の油揚げ、十全茄子、佐渡のスルメの一夜干し、コシヒカリのおにぎりなど、新潟のおいしいものがいっぱいです。故郷のかほりを感じられる温かい店内の雰囲気も懐かしさを誘うのか、仕事帰りの会社員で大変賑わっていました。
 

 実はこのお店、新潟出身の社長が経営していて、今現在展開する約二十店舗では、どこでも新潟のおいしいものが食べられます。この社長が最初に手がけたのは、平成元年、新宿の居酒屋とのことです。壁をガラス張りにして一面に一升ビンを並べた外装や、人気の高い新潟の地酒を数多く揃えているのが評判を呼び、連日お客様の長い行列ができたそうです。周辺の飲食店の店主も、店の外に出したお酒の空ビンのフタを取って帰り、売れている銘柄をチェックしたというほどで、その一帯のお店ではどんどん新潟清酒の扱いが増えたそうです。
 

 それから十八年、社長は一貫して新潟というふるさとにこだわり、新潟のお酒を食材を「お店」という場を通して、たくさんの人に紹介しています。大量生産ではない、手造りの味。だからこそ産地直送の役割を果たして新潟の素晴らしさを伝えたいのだそうです。 
 

 こんな新潟応援団の社長が東京という大消費地に生きてきて感じるのは、「比べるものがたくさんある」ということだそうです。
「新潟のものは、圧倒的においしい。しかし、いくらいいものでも、伝わらなくては選んでもらえない」
その言葉は、新潟県の生産者たちに対するエールとも言えます。


 社長は次の時代を担う新潟の人たちが、もっと活躍できる風土が育つことを期待しています。そのためにも、広い視野と価値観を持って、地元の魅力を見つめなおしてほしいそうです。
 

 最後に、社長が新潟に深くこだわる理由を尋ねると、
「ふるさとあっての、自分だから」
と、照れくさそうに答えてくれました。
 

2006.5.25 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子