NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第7回  映画が公開されるまで


 私が以前映画の仕事をしていたと言うと、どんな内容かとよく聞かれます。今日は、映画の配給宣伝の仕事について簡単にお話しします。


 映画の本編が日本に届くと、まずは字幕が付かない状態で見ます。本国から製作資料も届き、プレスと言われるメディア向けのパンフレットを作成します。この時点で一番大事なのが日本人の感性に合わせて、題名とポスター用の場面、そしてコピーを決めることです。
 

 ここで大いに議論した後、選んだ場面とコピーに基づいて、劇場で流れる予告編やポスター製作が始まります。その間にいろんな映画情報に載せてもらえるように資料を配りながら、同時にイベントの準備に取り掛かります。そうこうするうちに、映画に字幕が入り、映画評論家の人などに評論を書いてもらうべく試写会が何度も開かれます。


 さて、イベントというのは映画によって違うのですが、多いのが映画製作の現場にジャーナリストを招いたり、あるいは映画の監督や出演者を日本に招いて記者会見を開くことです。それらを進めながら、映画公開直前には街にポスターが貼られ、テレビで映画のコマーシャルが流れていくという算段です。
 

 映画一本の配給宣伝という仕事は、大体3ヶ月から6ヶ月の期間で終わります。受け持つ映画は1本ではなく、常に3本から5本くらい重なっていますので、目まぐるしく毎日が過ぎていきます。頭の中では、コメディ映画の爆笑シーンから、ミステリー映画の殺人シーンまで、ストーリーが信号のように変わっていきます。まるでスクランブル交差点を整理しながら進んでいく感じです。特に新人時代の私は映画知識についてはまるで素人同然でしたので、新しい映画が来るたびに、勉強することがたくさんありました。
 

 それでも、大きな作品も小さな作品も、大事な思い出で一杯です。一つの作品ごとにストーリーやテーマが違っていて、その世界に飛び込んで行ったからだと思います。野球、ダンス、音楽などのお話。その度に仕事上での新しい出会いがあり、ゼロから一緒に造りあげるという醍醐味がありました。
 

 そしていよいよ訪れる映画の初日。前日から不安と期待で眠れません。当日はそれまで一緒に仕事をしてきた人たちと、朝早くからメイン劇場の前でずっと様子を伺います。大ヒットと呼ばれる映画は、初日の初回から長い列が出来ます。そして「満席」の札が出た劇場の一番後ろに立ちながら、それまで手掛けてきた映画の初回上映の時を待つのです。そんな幸運な大ヒットに恵まれた時、映画の仕事をしていて良かった、と心から思うのでした。
 

2006.5.18 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子