NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第5回  ニューヨークの微熱


 二〇〇六年の一月中旬に、ニューヨークに行ってまいりました。Niigata Sake Selectionsという新潟県内の十二蔵元のきき酒イベントに参加するためです。このイベントは昨年始まった、アメリカ向け新潟地酒の輸出プロジェクトにおける初の蔵元参加イベントです。ニューヨークと言えば、世界一の情報発信地。イベント会場にも百人を越す酒類業界やメディアの方が来場され、好評を博しました。このイベントの翌日はニューヨーク新潟県人会の会合に参加し、交流を深めながら地元新潟の酒をみんなで味わいつつ、楽しい一時を過ごしました。


 今、海外では日本食ブームが起きており、日本食レストランは各国で増加傾向にあります。それに伴い、日本からの清酒の輸出量も毎年二桁の伸びを見せています。アメリカは世界一の日本酒輸入国であり、中でもニューヨークは海外で一番、日本酒文化が浸透している都市だと思います。実際、日本食レストランに限らず、フレンチやイタリアンの高級レストランのメニューにsakeを取り入れるところがありましたし、お酒を扱っているアメリカ人の方もとても熱心に勉強していて、酒文化に対する関心の高さを実感しました。滞在中は日本で言う高級居酒屋風のお店にも行ってみたのですが、多くのアメリカ人のお客様が自分の好みの日本酒を冷酒やお燗で頼んでいる様子を見ることが出来ました。出張中、至るところで遭遇したこのようなsakeの人気には蔵元としてとても嬉しく思いました。


 さて、今回のプロジェクトは、新潟をボルドーやナパと並ぶ世界的な産地ブランドにすることをテーマに発足し、ワインの高級産地と比較して新潟を語ることで、「高品質な酒イコール新潟」というイメージ作りを確立するべく事業が進められています。
 実際、海外においてワインと比較される機会が増えた日本酒は、産地による味わいの違いが語られるようになってきています。
 

 もっとも彼地において「新潟」ブランドはまだ日本国内ほどには浸透していないようにも感じます。それでも、きき酒イベントの時にそうであったように、飲んでもらうことによって新潟のお酒の特徴である「淡麗できれいな味わい」は実感してもらうことが出来ます。ある親日派のジャーナリストは、「他の県の清酒の中に新潟の酒があれば、必ず見分けられる」とその品質の高さを褒めて下さったほどです。それは、現地における日本酒ブームの大きな流れの中にあってはまだまだ微熱現象ではありますが、これからの可能性を感じたニューヨークの数日でした。
 

2006.5.4 NHKラジオ「朝の随想」
尾畑酒造株式会社
尾畑留美子