NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第3回  ツバメの到来

 

 早朝の道に新入学生たちの声がこだまする季節になりました。空ではツバメがすんだ声を響かせながら、自分たちの住処を求めてやってきます。

 
 四月四日、そのツバメが蔵にやってきました。今年の第一号ツバメは昨年より二日早く到来しました。最初一羽だったツバメは、数日後にパートナーを連れて帰ってきました。


 蔵には至るところにツバメの巣があり、毎年たくさんのツガイがやって来ます。まず取り掛かるのが古巣の補強ですが、以前はワラなどだったのが、最近はビニールの紐が混じっているのもリフォームの近代化、と苦笑い。
 

 巣が完成し産卵からしばらくすると、小さなさえずり声があちらこちらで聞こえ始めます。雛たちの誕生です。一列に並んで口ばしを大きく開けて親ツバメを待つ姿は、愛嬌たっぷりです。
 

 もっとも、雛ツバメの成長も順風満帆とばかりはいきません。雛ツバメが巣から落ちてヨタヨタ歩いている、というのはよくあります。蛇がツバメの巣を狙っていた、ということもありました。こういう時はあの手この手でツバメ親子を保護し、無事に巣立つまで見守っていきます。
 

 しかしながら、たまには予測できない事故も起こります。先日、勢いよく飛び回っていたツバメたちが正面衝突し、一羽が地面に落ちてしまいました。おそるおそる近づくと、仰向けに倒れて目を開けたまま、手足がピクピク動いています。これは、人間で言うところの「脳震盪」なのかな・・・と思いながら、そっと手を伸ばした瞬間、突然
「ピピピ!」
と一直線に元気に飛び立ちました。でも、向かった先にはすでに二羽のツバメが飛び交っています。三羽のツバメがくるくると輪を描きながらおいかけっこを始めました。どうも、つがいに一羽が邪魔をしているようです。先ほどの墜落も、ツバメたちの空中戦での出来事だったのでしょう。どのツバメが邪魔しているのかはわかりませんが、しばらくたつと、一羽が去り、ツガイが残って平和が戻りました。
 

 アクシデントにも負けず、ツバメの夫婦は巣のリフォームを再開し、産卵に備えます。翌日には新しいツガイもやって来て、家の中は心地良い鳴き声で溢れています。


 「ツバメが来る家は縁起がいい」という言い伝えがあります。根拠はありませんが、ツバメたちが元気な姿でやって来ると、一緒に幸せを運んでくれているように感じます。


 今年もたくさんの雛を頑張って育てて元気に旅立ってほしいと願っています。
 

2006.4.20 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子