NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第2回  佐渡の春の「宝物」

 

 この冬は例年にない厳しい冬でした。三月中旬にも拘らず雪が積もったりして、いつにも増して春が待ち遠しい数ヶ月を過ごしてまいりました。
 

 そんな佐渡で私が春一番を感じるのは、そこかしこの雪の下から顔を出し始めるフキノトウです。まだ小さなフキノトウをたくさん採ってくると、私のところではこれをフキ味噌にしています。採れたてのフキノトウをたっぷり使い、味噌は上品な白味噌で合えることで、春の香りがふわりと漂うフキ味噌の完成です。料亭の味には及びませんが、いわゆる田舎味噌の味わいで、炊き立てのご飯や竹の子などに載せて食べると春の訪れを感じます。


 このフキノトウに続いて出てくるのが、色白の新潟美人の山ウドです。私の父が十年ほど前から山ウドの栽培を始めたのですが、何事も凝ってしまう性格のためか、年々立派な山ウドが育つようになりました。その山ウド畑の特徴は、芽の出るあたりをおが屑や籾殻でうずたかく覆うことです。四月はじめに出始めるウドの芽は、このおが屑の中で成長して伸びていきます。こうすることによって、ホワイトアスパラガスのように色が白くて柔らかく、甘みのある山ウドが出来上がります。四月二十日頃に収穫を始めるのですが、このウドはいろいろなお料理に使えるのでとても重宝します。料理だけでなく、私のところでは粕漬けにもします。六月頃には野性味たっぷりで歯ごたえのある、新物の山ウドの奈良漬が完成するのが毎年の楽しみです。


 他にも、春の山菜と言えば、ぜんまい、わらび、つくし、たらの芽、こごみ等たくさんありますが、みんな、佐渡ではちょっと足を伸ばせば見つかるものばかりです。

 

 そして海の幸も春の香り漂う美味しい旬のものが出てきます。例えば、花もずくという細くて柔らかいもずく、アオサというあざやかな緑色の海草、ギンバソウという早春の海草も貴重な春の食べ物です。


 佐渡には海の幸、山の幸ともに豊富にあり、その宝の食材に四季折々楽しませてもらえます。もっとも、住んでいると身近すぎてなかなかその「お宝ぶり」に気が付かないことも多かったのですが、遠方の知人などに送って喜ばれ、貴重な「お宝」だと再認識するようになりました。

 

 この「お宝」を一番良い状態で楽しんで頂けるのは、もちろん、佐渡で採れたてを食べてもらうことです。採れたての新鮮な山菜や海草はそれだけでご馳走です。自然の宝庫といわれる佐渡の春ならではの「宝物」を楽しみながら、島開きの季節の到来を感じる今日この頃です。
 

2006・4・13 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子